めまいが起こる仕組み
人間は自分の周囲の空間や位置を目・内耳(三半規管、前庭)・手足の皮膚や筋肉などで感知し、その情報を脳に伝達・統合し、微妙な体のバランスをコントロールしています。
この仕組みのどこかに不具合があると、平衡バランスが崩れ、めまいとして感じられます。
めまいを起こす疾患には、以下のようにいろいろなものがあります。
めまいを起こす疾患
良性発作性頭位めまい症
「めまい」で受診される患者様で最も多くみられる疾患で、特定の頭の位置の変化(例えば寝返りを打った時、頭や顔を洗うために下を向いた時、ベッドから起き上がった時、美容院の洗髪でリクライニングした時など)により出現するめまいです。
ぐるぐる目が回る感覚が強く、恐怖感や不安感、吐き気を伴ったりしますが、一般に聴覚障害はおきません。
名前の通り、良性で比較的治りやすい疾患です。
内耳にある耳石器(頭や体の傾き具合を感知する器官)から耳石(炭酸カルシウムの結晶から成る組織)が剥がれ、三半規管の中に入り込むことによって発症すると考えられています。
他の疾患を否定するために聴力検査を行います。
また、眼振検査(眼球の異常な運動の有無を調べる検査)を行うことで、容易に診断がつくこともあります。
めまいや吐き気に対し、症状をやわらげる薬を内服することで改善することが多いですが、病巣によっては、Epley法やLempert法とよばれるリハビリを行い、耳石を半規管からもとの場所(耳石器)に戻すと早期に症状が改善する場合もあります。
繰り返しリハビリを行うと治癒が早まります。
多くの場合、後遺症なく完全に回復しますが、数か月毎に症状が繰り返されるケースも少なくないので注意が必要です。
メニエール病
回転性のめまいに突然見舞われ、同時に片側の耳鳴り、耳閉感、難聴なども起きます。
一度発作が起きると30分~数時間ほど続き、何回も繰り返すようになります。
めまいの症状は、脳卒中や高血圧で起きることもありますので、しっかり鑑別をつけるためにもかならず医療機関を受診してください。
メニエール病は、内耳にリンパ液が溜まること(内リンパ水腫)で起きるとされ、ホルモンの影響によるものではないかとも言われていますが、詳しい原因は、まだ解明されておりません。
ただ、ストレス、疲労、寝不足などにより、抗利尿ホルモンの分泌が不安定になり、内耳の排水機構に不具合が生じておこるのではないかと考えられています。
聴力検査、眼振検査、頭部MRI検査、平衡機能検査などを行い診断します。
初発症状では、突発性難聴に準じた治療を行います。
また、めまいや難聴の程度がひどい場合は、入院治療が必要となります。
なお、現在のところメニエール病の詳しい原因は不明であり、この病気の根治的な治療薬というものはありません。
内リンパ水腫に対し、水はけを促す目的で浸透圧利尿薬や漢方薬を用います。
また最近の研究では、水をたくさん摂取する飲水療法により、利尿剤内服と同等の効果が得られるケースもあるという報告もあります。
また、めまいや吐き気に対しては、対症療法薬を投与します。
それらの治療で改善効果が見られない難治例では、内リンパ嚢解放術という手術を行う場合もあります。
その際は、連携病院をご紹介いたします。
前庭神経炎
前庭神経炎は、突発的に激しい回転性のめまいが起こるのが特徴で、それが1週間くらい続きます。
その他にも、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
発症する数日~2週間前に、風邪などの上気道の感染症にかかっていることが多く、風邪ウイルスによる前庭神経(平衡感覚を司る神経)の炎症が原因とも言われていますが、詳しい原因は解明されていません。
また、この疾患は内耳の病気であるにもかかわらず、聴力に影響せず、耳鳴り、耳閉塞感もないのが特徴です。
なお前庭神経炎が疑われる場合は、平衡機能検査を行い、眼振(眼球のぶれ)の有無を調べることで診断をつけます。
治療に関しては、何もせずとも2~3週間で自然に治るケースが多いのですが、症状を緩和させる薬(めまい止め、吐き気止め、ステロイド薬など)を使用することもあります。
ただし、ふらつく感じ、いわゆる平衡障害は数か月続く場合もありますが、それも徐々に改善に向かいます。
耳が聞こえにくい、耳閉感のある病気
突発性難聴
その病名の通り、なんの前ぶれもなく、ある日突然、突発的に片方の耳が聞こえなくなる疾患です。(まれに両側に症状が出ることもあります。)
難聴の症状以外にも、めまい、耳鳴り、耳閉塞感が同時に起こることもあります。
音を感じる細胞の働きが急激に低下し、感音難聴を示しますが、その原因は不明です。
ただ、一説にはウイルス感染や内耳の血流障害、免疫異常などの関与が指摘されております。
ストレスや疲労、睡眠不足が引き金となる例が多く、また感冒症状にともなって発症することも少なくありません。
診断は、純音聴力検査、鼓膜鏡(直達内視鏡)検査、平衡機能検査等で行います。
鼓膜には異常がなく、純音聴力検査で感音難聴を認めます。
また、平衡機能に異常をきたし、めまいやふらつきなどの症状が出る場合が、3割程度あるといわれております。
突発性難聴は非常に治りにくい病気の一つで、早期発見、早期治療を受けた場合でも完全に治癒するのは、全体の⅓程度と言われております。
しかし治療開始時期が早いほど聴力が回復する可能性が高くなるので、とにかく早期に(できれば発症後1週間以内)治療を開始しないといけません。
蝸牛神経(聞こえを司っている神経)の炎症を抑える目的で副腎皮質ステロイドホルモン剤(以下ステロイド)や蝸牛神経の栄養源であるビタミンB12、また血流の悪い内耳の血液循環を改善するために循環障害改善薬を投与します。(ただし、糖尿病、高血圧、緑内障、胃十二指腸潰瘍、結核、ウイルス性肝炎等の既往がある方は、ステロイドが使用できない場合もあります。)
また、中等症から重症の場合は、入院治療が必要となります。
その場合は、ステロイド等の点滴静注や内耳の血流改善を目的として星状神経節ブロック(首にある神経節に薬剤を注射する治療)や蝸牛神経に多くの酸素を供給し神経を活性化させる目的で高気圧酸素療法を行うこともあります。
なお、この疾患は今なお原因不明で有効な治療法がまだ確立しておりません。
現時点では、発症時の状況や臨床所見、既往歴などを総合的に判断し、治療法を決定しています。
慢性中耳炎
急性中耳炎が治りきらずに続いたり、繰り返したりして、鼓膜の穴が開いたままになっている状態が慢性中耳炎です。
鼓膜に穴が開いている(鼓膜穿孔といいます)ので、その奥にある中耳にばい菌が入って感染を起こすこともあり、その場合は膿性や粘性の耳だれ(耳漏)が出てきます。
鼓膜穿孔があっても、感染を起こさなければ、耳だれなどもなく、そのままにしておいて大丈夫な場合もありますが、急性増悪時は、聴力の低下、耳だれのほかに、耳鳴り、めまいなどの症状が出ることもあります。
難聴がひどく、また鼓膜穿孔を閉鎖することで聴力の改善が見込める場合や、感染を繰り返し、たびたび耳漏に悩まされるケースでは、手術適応となりますので、連携病院へご紹介いたします。
一般的には、小~中程度の穿孔であれば鼓膜形成術、穿孔が大きい場合には鼓室形成術を行うことになります。
聴神経腫瘍
聴神経腫瘍とは、音の聞こえや平衡感覚をつかさどっている第8脳神経にできる腫瘍のことをいいます。
聴神経腫瘍のほとんどは良性腫瘍で、すぐに生命の危機が及ぶということはありません。
症状は、片側の耳鳴り、難聴、めまい、ふらつきです。
それらの症状はゆっくり進行しますが、ときに突発性難聴のように急に聞こえが悪くなるケースもあります。
病状が進行すると、となりにある第7脳神経(顔面神経)を圧迫して、顔が曲がってきたり(顔面神経麻痺)、さらに大きくなると脳幹や小脳を圧迫して重篤な症状をきたすこともあります。
聴力検査や平衡機能検査、頭部造影MRI等を行うことによって診断がつきます。
治療は、手術で腫瘍を取り除く方法と放射線治療で腫瘍を小さくする方法とがあります。
放射線治療は、ガンマナイフというものを用いて腫瘍の増大を抑制するわけですが、腫瘍を消失することはできないので、その点注意が必要です。
ただし、半数以上のケースでは、腫瘍の進行はきわめてゆっくりなため、ご高齢の場合などは、手術をせず経過観察にとどめる場合もあります。
聴神経腫瘍が疑われる場合は、連携病院へご紹介いたします。
脳循環障害(椎骨脳底動脈循環不全症)
脳の血流が不足して、めまいに関係する小脳、脳幹の機能が悪くなることによって起こります。
めまいのほかに舌がもつれる、物が二重に見える、手足がしびれるなどの症状が生じることもあります。
激しい頭痛や意識不明などの症状があれば、脳出血が疑われます。
めまいの診断
めまいの診断の流れについて、簡略に触れておきます。
- 1.問診
- 患者様の訴え、お話を注意深く聞くことはたいへん重要であり、問診だけでほぼ診断がついてしまうようなケースも少なくありません。
下記のような内容について、できるだけ詳しくお聞かせください。- いつめまいが起こったか
上を向いた時、横になった時、歩いている時、など - どのようなめまいが起こったか
ぐるぐる回った、ふわふわした、など - どのように経過したか
数分で治まった、数日間もぐるぐる回った、など - めまいに伴った他の症状
耳鳴り、難聴、頭痛、体のしびれや麻痺、物が二重に見えた、など
- いつめまいが起こったか
- 2.検査
- 診察
- 聴力検査
- 赤外線CCDカメラ下眼振検査
- 画像診断 など